ピエールの憂鬱!


 

第一章   「ピエール、何処へ?」

私がこのページの更新をサボっている間に、彼にはいろいろドラマがありました。最近また遊びに来るようになりましたが、去年(1997年)の夏頃から今年の3月頃までちぃ〜っとも姿を見せませんでした。(あっ、一回だけ来よった!)来なくなって2ヶ月ほどした頃に「情報源」である弁当屋のおっちゃんに尋ねたところ「最近別のところへ遊びに行ってるみたいやで〜」といって教えてくれたので、元気にしてるんやったらまぁええわとひと安心。ところが10月の終わりになって一人で残業していると入り口のドアを「ドンドン!」と叩く音がして「かなわんなぁ、また何かの勧誘かセールスちゃうやろか?」としばらくほっといたところ、あきらめる気配がありません。仕方なく「誰でっか〜?」とドアを開けると何とそこには傷だらけのピエールが...!「ハァハァ」と苦しそうに肩で息をしながら中に入ってきました。私はビックリして「ピエール、どないしたんや?」と聞きましたが、彼は事務所に入っていくとバタっと倒れ、目を開いたままじっとしています。てっきり交通事故かいたずらされたものと思い、金属バット片手に(何するつもりや>自分)表へ出て行き、あたりを見回しましたが誰もいません。取りあえず事務所へ戻って彼の様子を見てみると鼻の周りや背中に傷が集中しており、右前足には幅3センチ、長さ8センチほども皮が無く肉が丸見え状態の傷がありました。呼吸は荒いものの徐々に動き出して、いつものように甘えてきたのでこちらもほっとして「何か食べるか?」「水飲むか?」といって用意をしてやると、いつもほどは勢いよくないものの食べてくれたので、その間にタウンページで往診してくれる獣医さんを探し、電話しようとした時、彼はとことこと出ていってしまいました。慌てて後を追いかけて表へ出ましたが、もう彼の姿はありません。それから30分ほど待ってみましたがもう帰ってきませんでした。翌日弁当屋のおっちゃんにそのことを話すと「今朝はちゃんと戻っとったで」と教えてくれました。後で聞いた話によると、ノラの彼女ができて一緒に散歩してたところよその犬がちょっかいをかけてきて喧嘩になったそうです。何とか彼は勝ったもののその喧嘩であっちこっちに怪我をしてしまったとのこと。彼の飼い主は「骨折してないし、犬は自分で治す力を持ってるから人間がいらんことせんでもええんや!」と獣医さんには連れて行かなかったそうです。(なんか凄いこと言うてはる)いつもはおとなしくてどんくさいところばかり見ているので、結構男らしいとこあるんやなぁと少し見直しました。それからまた1ヶ月ほどした頃、彼が「パパ」になったことを弁当屋のおっちゃん聞かされ、一緒に遊びに来ることを楽しみにしていたのですが、思わぬ出来事が...。

 

第二章  「ピエール、運命の悪戯」

ピエールの子供は二匹生まれたそうです。しかし残念ながら一匹は生まれてすぐに亡くなってしまったとのこと。彼の本宅である工場の隅っこの溝で生まれたもので、しばらく誰も気付かなかったみたいで、見つけた時にはもう雨で濡れて冷たくなっていたそうです。もう一匹の子犬はというと、ころころとしてなかなか愛敬のある子だそうです。こんなところで、もう「運」がある子かない子か別れるなんて、仕方ないことなんでしょうけどちょっと残酷ですね。たった一匹になった彼の子供はみんなにかわいがられ、ますますころころになり、ピエールと母親の後を一生懸命ついていく姿がなんともいえないとおっちゃんは語ってくれました。私も早くその光景を見たくておっちゃんにピエールの本宅の詳しい場所を教えてもらおうと思いつつ、仕事が忙しくてなかなか機会がありませんでした。そうこうしているうちに年末が近づいてきて「何とか今年中に見ておこう!」とおっちゃんに聞いたところ「ちょっと話しにくいんやけど...」と言葉を濁します。「なんや、気色悪いからはっきり言わんかいな!」と問いただすと「気ぃ落とさんと聞いてやぁ」と話し始めました。おっちゃんの話によるとこうです。飼われているのが工場なので、車の出入りが頻繁なのは仕方がないことです。犬がいると知っている運転手はみんな気をつけていたのですが、初めて来たそれを知らない運転手が、何とたった一匹になったピエールの子供を轢いてしまったそうです。いつもは車が来たら、誰かが出てきて安全を確認していたそうですが、その日に限ってみんな出払っていて、こんなことに...。すぐに病院へ連れていったそうですが、残念ながら手後れだったそうです。話を聞き終わって、なんともやりきれない気分になり、生まれてすぐに天国へ行った兄弟と向こうで仲良く暮らしてくれるようにと願うことしか出来ない自分に、何だか少し腹立たしさを覚えました。二匹の子犬ちゃん、どうか安らかに...。

 

第三章  「ピエール、悲しい別れ」

季節は流れて今年の3月のある日、ひょっこりとピエールが顔を見せました。しかしその傍には彼女の姿がありません。「なんや、今日は独身か?」と言いながら彼の様子を見ると何となく元気がありません。それでもご飯を出すとぺろりと平らげたので、さほど心配もせずに次の「営業先」に向かう彼を見送りました。次の日も彼はやって来たのですが、またシングルでした。「はは〜ん、さては彼女にフラれたな?」と冷やかしたものの、彼の子供たちのことを思い出し、胸に不安がよぎりました。早速いつものおっちゃんに詳しいことを聞くと「かわいそうに、彼女は保健所へ連れて行かれてしもたんや」とショッキングな答えが返ってきました。ピエール(ゴン)の飼い主は「この前みたいにまた子供が産まれたら困るから、ノラ犬である彼女を保健所へ連れていった」と言っていたそうです。私は「そんなむちゃくちゃな、いきなり保健所へ連れて行かんでも避妊手術するとか他に方法あるんちゃうんか?」とおっちゃんに八つ当たりをしてしまい「わしに言われても知らんがなぁ、わし悪いんとちゃうでぇ〜」とおっちゃんを困らせてしまいました。おっちゃんごめんなさい。後日、以前ピエールの本名を教えてくれた彼の本宅の近くに住むおばちゃんに会った時、その話になり、その時のことを詳しく聞きました。ピエールの飼い主も避妊手術のことは考えたそうですが、不景気の今、ノラ犬である彼女にそこまで費用をかけられないと、保健所へ連れて行くことにしたそうです。事情は良く分かりますが、私としては納得できません。あんなに仲良くいつも寄り添っていた二匹が離れ離れになるなんて...。ピエールもしばらくは食事もとらず、悲しそうに鳴いてばかりいたそうです。そこでおばちゃんに「もし、今度ピエールに彼女が出来て、その彼女を保健所に連れて行くという話が出たら、必ず知らせてください!」と厚かましくもお願いしてしまいました。もちろん避妊手術の費用を私が持つつもりです。「飼い主でもないのになんでそんなことするん?」と思われるかもしれませんが、ピエールにはそうさせる不思議な魅力があるのです。少なくとも私にとっては...。

 

第四章  「ピエール、おまえというやつは」

悲しい話ばかりになってしまいましたが、ピエールというやつはやっぱり大ボケ犬です。4月に入ってまた彼は来なくなり、心配していると「あの犬ホンマにあほや」と弁当屋のおっちゃんの方から話してくれました。それによるとピエールの本宅近くに犬をたくさん飼っている家があり、なんと彼はそこの犬の餌をかっぱらいまくったそうです。そこでその家の人から苦情があり(あたりまえじゃ!)ついに「自由犬・ピエール」は囚われの身に...。生まれてはじめてヒモでつながれることになったそうです。(しかし、黙ってピエールに餌を取られる犬も犬ですなぁ...)しかし1ヶ月もすると自力でヒモをはずし、またいつものピエールに戻りました。何度つないでもはずしてしまうので、飼い主も諦めてしまったようです。阪神淡路大震災の時、ヒモにつながれていなかったから落ちてきた壁の下敷きにならずに済んだということもあって、黙認してもらっているようです。おかげで私も今まで通り、彼に会えます。最近ではちょっと「太め」になってきたピエール。鼻の周りには「勲章」である傷痕がまだはっきりと残っています。これからもよろしく(^^)

 


 

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